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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

2005年

2005年

コスモス
1月号

台湾より輸入され来し秋キャベツややにひらたき球を結べり

夕焼けの水平線へ進みゆく我の乗りたるフェリーボートは

夕焼けの華やぎ徐々に鎮まりて海面(うなも)に白く秋の霧立つ


2月号(武田弘之選)

帰国して出会ふほやほや日本語にハイカ、エンタメ、セレブ、フユソナ

自転車のギアを一段チェンジしてコスモスの咲く丘へと登る

高値なれど店には野菜も豊富なり台風シーズン過ぎし東京

わが顔をおかめに映す銀の匙磨きあげつつ「にらめつこ」する


3月号(奥村晃作選)

地蔵尊の賽銭入れに張り詰めし氷の底に五十円玉

昨夜(よべ)吹きし風の形をそのままに凍りつかせて樹氷が光る

演奏の始まる前の一瞬に会場の「気」がひとつになりぬ

抑揚もリズムも効きて調子よくどこかラップに似たる義太夫


4月号(高野公彦選)

「津波からどう逃げるか」の講演に公会堂は五分の入りなり

マイナスの気温が続く昨日今日鴉の声が聞こえなくなる

凍りつき車のドアが開かないマイナス10度今朝の冷え込み

上と下両隣より伝ひ来てわがアパートに貰ひ暖房


5月号
一(ワン)、二(ツー)、三(スリー)、一(ワン)、二(ツー)、一(ワン)と歩み来てベビーは母の手に倒れ込む

偶然に歩けてしまつたあかんぼが母を見上げてクククと笑ふ

奔放のやうでコードとリズムにはちやんと乗るジャズ 短歌に似たり


6月号

鉛筆のやうに尖れる「のぞみ」号空気を破り加速してゆく

一目散に西へと向かふ「のぞみ」号 のぞみとはかく一途なるべし

差し入る日俄かにまぶし 車窓には瀬戸内海が見え隠れする

食む人の心が優しくなりさうなはなびら餅の薄き紅色

三月の海風時に冷たくて岬の桜咲きかねてをり


7月号

ギュッと手を押さへて指紋を採りてゆく入国が入獄のやうなアメリカ

「あげます」の広告を出して十日間 ベッドの貰ひ手まだ現れず

この五年袖を通さぬ訪問着大事大事に箪笥に眠る

日系のDNA持つ一歳児おかかのおにぎり頻りとせがむ


8月号

昏れ遅きカナダのサマータイムの夜八時青空高くジェット機が飛ぶ

身の巡りジーパン、Tシャツ、スニーカー中国製品増え続けゆく

石楠花が散り始めたり 紅淡く二ひら三ひら土に重なる

白き花を青葉もろとも揺らしつつハンカチーフトリーに午後の風吹く


9月号  川辺古一選

母に寄り池岸にゐる雛鴨を遠巻きにして鴉が狙ふ

雛十羽すべて失くしし母鴨がじつと坐れり池のほとりに

生存率高くなり来し人間の驕りなるべし少子化社会は


10月号

「葬式はよく知る人の送別会」 福聚寺住職淡々と説く
 
Japanese(日本の) National(国民的な) Gymnastics(体操)とアンの加はる「ラジオ体操」

カナダにはつひぞ出会はぬ国民の誰もが出来る共通体操


11月号

楽しくて寂しくて少し厄介な父母の想ひの籠もるアルバム

開きても開きてもまだ減りて来ず 引越荷物のダンボール箱

夏の午後上昇気流に乗りて飛ぶ十一階から吹くしやぼんだま


12月号

鎮火には十日はかかる沼地(ボグ)火事(ファイヤー) 消防自動車次々に行く

太陽がぼんやり見えて薄暗し燃え続けゐる野火の三日目

ベランダに白く細かき灰積もる勢ひ止まぬ野火の四日目

十字切り聖書に手を置き誓ひ合ふ結婚式の同性カップル


歌会

1月
やりかけの仕事がどれも片付かずもぐらたたきのやうな日常

恋人が夫となりて欠伸する 恋はよそゆき愛は普段着


2月歌会  
詠題「土」

寒さやや緩みて今日は石楠花の根方に黒き土が覗けり

哀しみは土に埋めたりそこよりは薄紫の花の咲くべし


3月歌会

熱々のオニオンスープの一匙目とろりチーズが糸を引きたり

灰色の雲より落ちて灰色の雪がどんどん白く積もりぬ


4月歌会

詠題「響く」

張りのある声朗々と響かせてパヴァロツティの愛の絶唱

打楽器のごとくに太く響きたり義太夫に添ふ三味線の音


5月歌会

旅先のたそがれときが寂しいと母はなかなか旅をせざりき


六月歌会

不自由な右手励まし書き呉れし母の手紙をもう一度読む

不自由な右手に書ける母よりの手紙の行は右に傾く


八月歌会
               
遠来の友と訪ねし庭園は折しも青き芥子の花季(ブチャード・ガーデンにて)

優しげな薄き花びら震はせてヒマラヤ種の芥子青く群れ咲く


九月歌会 

晩年の母には誰もやさしかり ドアを押さへてくれるなどして

内側の擦り切れたれど外側は手馴れてやさし黒皮財布


十月歌会

詠題「川」
その先は滝へと続く川の水 押され押されて流れ続ける
幼き日姉と蛍を見し川の暗渠となりて今も流れる


十一月歌会           
「ねえさん」と我を呼ぶのを避けてをり 同じ歳なる義理の弟
「魚の目がこちらを睨んでゐるみたい」御頭付きがアンの弱点


十二月歌会  

しとしとと冷たい雨が見たいとふカリフォルニアに住む歌の友


座間歌会
石綿にビーカーを載せ加熱しき 高校時代の理科の授業に




短歌往来8月

 モザイクの町

中国人と間違へられて差し出さる対日抗議の署名簿とペン

兵なりし父に想ひを馳せながら反日デモの記事を読みゆく

デモ隊の史実誤認を指摘する台湾人の楊さん夫妻

歳月の経たば自づと顕れむ 今の我らの知らぬ真実

お互ひに微妙な話題うまく避け陳さんと観る白き石楠花

夕つ陽を集めてしばし華やげり白一色の石楠花の花





for Tanka Journal

The First Year of the Life
          By Noriko Sato
Hi, Marc,
you were born
one year ago
with your eyes closed tight
with no eyelashes yet visible

Hi, dear Marc,
you were sleeping
most of the time,
fragile and tiny in your cradle
wrapped in a blanket nice and warm

Oh, my Marc,
one year has passed
and you are toddling
just like a duck
chanting, dancing, screaming your way

Oh, my Marc dear,
You wave ”Hello”
to the people you like,
You open the mouth wide
to the foods you love

Oh, dear baby,
I am a witness
of the first year of your life
when you accomplished so very much
but will never remember yourself



GUSTS 2005.04

Swimming

Smoothly and swiftly
as if flying through the ocean,
penguins swim across
the Vancouver Aquarium “Antarctic” water,
magnificence of new environment


Into mid stream
seven ducklings paddle
from behind reeds
after their caring mother
in the clearing morning mist


“War Cry” roars up
We rushed into cold water
hand in hand
New Year’s traditional and ceremonial
“Polar Bear Swim”




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